櫻井和寿
1970年3月8日生 Mr.Children Vo.
もう20年ほど聞いている。ミスチルはロックを貫き、権力への批判や時代の憂いを含む歌を歌う。サザンオールスターズなどよりさらにロックとしてのレディネスを整えている。まずここに共感する。そのスタイルについての私見。

歌唱のスタイルについて

桜井和寿は2002年の、小脳梗塞の手術以降劇的に歌唱が変わった。美声に頼っていた部分が語るような歌い方になり、歌に真実味がのった。美声と書いたがそれは例えば陽水やスティービーワンダーのような意味ではない。どこまで伸びるような声量や高音をもっているわけではない。

 

実際にライブでは高音に詰まることも多く、イノセントワールドなどは会場が一緒に歌うという演出が定番になっている。調子の良い時もあり、高音に力を感じる時もある(ただしファルセットは弱くなる)。’05のApbankでの歌唱はレコーディングでも使った裏声を用いず実声で歌い上げた絶唱である。

 

 

櫻井の美声には独特の周波数を感じさせる個性があり、リズムやシャウト、特に早い言葉の羅列が心地よい感覚を生む。Askaが日本語を伝えるためにあえて粘っこく歌うのに対し、あくまでリズムを強調し、子音によるアクセントとリズムの強調を外さない。Askaが『名もなき詩』を歌った映像では、Askaの歌唱では外人の日本語のように聞こえる結果となる。そして中間部の早口では二人で歌うアレンジとなっている。この曲の要である畳み掛けるようなリズムと歌詞の共存にはここでは櫻井の声が必要と小林Pが判断したように思える。

 

 

ミスチルの歌詞は量が多く難解だが、歌詞に共感する若者は多い。言葉尻だけをとらえると各曲で違うメッセージを放っていたりもする。例えばフェイクの『全てはフェイク』と Anyの『その全て真実』など切りがない。しかしその内容は、前後の脈略や、音楽と切り離して考えることはできない。例えば非常に不協和音を鳴らしているところで真実というワードが出てきてもそれは皮肉と捉えられる。音楽とはそういうものだ。

 

ピアノだけ、ギターだけで成立する音楽ではなく、バンド全体のサウンドと共にある櫻井の芸術。ここに孤高のメッセージを聴衆が感じる必然性がある。

 

サウンドと共にあるメッセージ

そうしたバンドのサウンドと歌詞が一体化し、櫻井の美声と天才的な作曲がミスチルの魅力と考えている。以上に述べた傾向が手術以降の櫻井の芸術性である。『車の中でかくれてキスをしよう』などの分かりやすい歌詞と聞き取りやすいメロディーから、Giftなどに至ると明らかに全体のサウンドを大切にしている傾向が伺える。それは曲を先に作り、そこに歌詞を乗せるという櫻井の作曲法とも重なるかもしれない。

 

ここに櫻井がソロとしてのアルバムを発売しない理由がある。桑田佳祐や稲葉浩志、Aska、吉田美和などとは異なる。ロックバンドとしてのサウンドが放つメッセージと櫻井歌唱はセットであり、切り離すことができない。