ジェフ・バックリィ Jeff Buckley
1966年11月17日 – 1997年5月29日

それほど洋楽の歌ものを聞くわけではない。どちらかというとヴォーカルならジャズか、クラシックを好む。もちろん一通りは聞いたことがあるし、ヴァンヘイレンのコンサートにも行ったし、詳しい方だとは思う。

ただ、たまに聞かずにはいられない声として長年、ジェフ・バックリィがいる。その透明かつ力強い音色と、精神性の高さを感じさせれ歌が無性に恋しくなる時がある。他のアーティストでは替えの効かない唯一無二のアーティスト性を私は好む。

クラシックでは不世出のドイツのテノール、フリッツ・ヴンダーリッヒとシンパシーを感じる。若くして自殺(諸説あり)したというだけでなく、その歌声の持つ魅力に共通するものを感じるのだ。この2人は歌声の中にある精神性の陰影、言葉の明瞭性、宗教観、何か寂しさを感じさせるような枯れた味わいが心に迫ってくる。

オリジナルアルバムは『GRACE』しかない。この1枚が1994年のロック史の中でもひときわ明るさを持っている。当初はそれほどセールスは期待されなかったのだが、U2、ジミー・ペイジ、エルトン・ジョンなどにより絶賛され、ロングセラーとなる。’95には来日も果たす。
GRACEの中で2曲だけ取り上げたい。どちらもカヴァー曲である。

 

名曲、2曲

Halleluia

「ハレルヤ」は1000年以上もキリスト教会で謳われてきた言葉である。1685生のヘンデル「メサイア」の中で謳われて、ある種の高みにまで昇華された言葉である。時は進み、テクノロジーは進化した中で音楽家がこの言葉をどのように表現するべきかという答えだと思う。ライブではフランスの原爆実験に対して憂いている気持ちを表現したいと歌い始める。ジェフがギターの名手であったことも伝わる名曲である。なおJohn Cale 、Bon Joviなど、カヴァーも数多い。オリジナルはバスの声を持つ珍しいシンガーLeonard Cohen。

 

 

Lilac Wine

「ライラック・ワイン」はもともとミュージカルの曲。ライラックという木からワインを作る。ワインの醸す甘美と高揚、不安定さと自分の恋を重ね合わせて歌う。ヴァース(語りのような部分)から始まり、メロディックになっていく作りはさながら往年のミュージカル調。Over the Rainbowのようなね。

この曲は好んで聞いてのだが、ニーナ・シモンを聴き始めた時にこの曲が流れてきてもっと好きになったのだ。もちろんニーナ・シモンの方が先に録音しているわけだが、ジェフから遡ってニーナ・シモンも聞くようになった。他にもジョン・レジェンド、ジェフ・ベックなどがカヴァー。

この曲にも「静けさ」が漂う。旋律はもりあがっていくのだが、決して声を張りあげることなく、最低限の音のみで真実を伝えようと聞き手に迫ってくる。そう、ジェフの歌には「余計なものがない」。これは透明感といった言葉でも表現されるのだが、極限まで整理され、高められた素材のみで作られた音楽の美しを感じることができる。音楽とは足し算ではなく引き算なのだと教えられる楽曲。