他人の顔 (1966/勅使河原宏監督)劇中歌「ワルツ」

 

この白黒映画をなぜ見たのかと言うと、武満徹の「ワルツ」と言う曲が入り口である。普通は主題歌に惹かれて映画を見ると言う流れはないのかもしれないが、とにかくそう言うことになった。

武満徹はもちろん日本を、世界を代表する作曲家だが、映画音楽を愛した。年間に200本は映画を見ると言うほどの映画好きで、映画音楽を多く手がけ、名曲を数々生み出している。

「他人の顔」は安部公房の小説であり、ストーリーは他を参照してほしいが、不慮の事故で顔に傷を負った男が、マッドドクターによって他人の顔をもらう過程で起こる事件や心理の動きを描いている。

顔に傷を負った女性が出てくるのだが、この女優は入江美樹で、後の小澤征爾の奥さんである。これにはびっくりした。ロシアの血が入っていて、びっくりするほどの美女なのだが、顔にケロイド状の傷を負った姿とその行動が主人公の男とも対比され、メッセージを発する。

この「他人の顔」では効果音のような音楽はない。ただ「ワルツ」がドイツ語で歌われる、もしくはオーケストラで演奏されると言う趣向になっている。劇中、今はなき新橋ミュンヘンでの歌唱は前田美波里。

ワルツだけあって、3拍子。けだるい雰囲気が全体を包む。ドイツ語で作詞され、歌われるが、後に日本語版もつくられている。武満は後に「うたⅠ,Ⅱ」として合唱用に多くの歌曲を自ら編曲したが、この曲は含まれていない。

この詞はかなり曲の内容とリンクしており、存在というものの不確かさを訥々と表現する。近くて遠いもの、本当の自分とは、他人とは。

ワルツ 岩淵達治

見つめる君の顔は
ほんとに君か
これが君か
きのうの・・・

夜霧に包まれ
おぼろだった君
近いのに遠かった

月夜に出会った
木にはガラスの肌
他人の仮面だった

春だったぼくらは
お互いのもので
心もひとつだった
別れを告げても
君はそばにいて

身体は離れても
思いもしなかった
突然君が他人になる
いま君の顔はこわばり
他人の仮面のよう

春だったぼくらは
お互いのもので
心もひとつだった

別れを告げても
君はそばにいて
身体は離れても

見つめる君の顔は
ほんとに君か
これが君か
きのうの・・・